「1社の仕事で毎日埋まっているから、他を探す余裕がない」 「その1社から『来月で終わり』と言われたら、収入がゼロになる」
軽貨物の個人ドライバーで最も多い収入構造は、1社の荷主(または委託元)で売上の8〜10割を占める形です。結論から言うと、荷主が1社だけの状態は「収入が安定している」のではなく「リスクが1か所に集中している」だけで、売上の比率で最大の荷主を5割以下にしていくのが目標になります。この記事では、なぜ分散が必要か、どの順番で2社目・3社目を加えるか、分散したときに増える事務をどう処理するかを整理します。
結論:最大の荷主が売上の5割を超えていたら、分散を始める
まず、自分の状態を数字で見ます。直近3か月の請求書から、荷主別の売上比率を出してください。
| 荷主 | 月平均売上(例) | 比率(例) |
|---|---|---|
| A社 | 380,000円 | 84% |
| B社(スポット) | 50,000円 | 11% |
| その他 | 20,000円 | 5% |
この例では、A社が終わると収入の84%が消えます。次の仕事が見つかるまで平均2か月かかるとすると、その間の生活費と固定費を貯金で賄うことになります。
分散の目安は、次の3段階です(比率はあくまで目安です)。
- 段階0:最大の荷主が8割超 → まず2社目を作る
- 段階1:最大の荷主が5〜8割 → 3社目を加え、5割以下を目指す
- 段階2:最大の荷主が5割以下、3社以上 → 維持しつつ、時間あたり粗利の高い荷主の比率を上げる
1社依存で起きる3つのこと
1. 打ち切り
荷主側の都合(物流の内製化、委託先の変更、業績悪化)で契約が終わることは、ドライバーの働きぶりと無関係に起きます。フリーランス法では継続的な業務委託の解除に30日前の予告が求められますが、30日で次の仕事が見つかるとは限りません。予告のルールは契約終了は30日前予告が原則——軽貨物ドライバーを守るフリーランス法で解説しています。
2. 単価の引き下げ
「来期から単価を1割下げたい」と言われたとき、他に荷主がなければ断れません。分散していれば、「その条件なら稼働を減らします」という選択肢が持てます。交渉の力は、代替があるかどうかで決まります。
3. 支払遅延
1社からの入金が遅れると、その月の固定費が払えなくなります。3社体制なら、1社の遅れを他社の入金で一時的にしのげます。未入金が起きたときの動き方は、別記事「軽貨物の運賃が入金されない」(公開後にリンク追加予定)で扱っています。
2社目を作る順番:時間帯・繁忙期・請求タイプが「ずれる」荷主
2社目は、今の荷主と条件が「ずれている」ほど効果があります。
- 時間帯がずれる:午前中心の荷主なら、午後や夕方の荷主。組み方は別記事「午前宅配+午後企業便で空き時間を埋める」(公開後にリンク追加予定)を参照
- 繁忙期がずれる:年末に増える荷主なら、年度末や夏に動く荷主
- 業種がずれる:通販系なら企業間配送、宅配なら店舗間の横持ち。同じ業種の荷主は同じ理由で同時に減る
- 請求タイプがずれる:シンプル(個建て)の荷主に、運賃ベース+加算の企業便を組み合わせると、加算(待機料・附帯業務料)で収入の構造も分散する
最初の2社目は、売上の2割程度を目標にします。いきなり大きく取りに行くと、1社目の完了率が落ちて両方を失います。
今の荷主に「他の案件も受ける」と伝えるときの言い方
分散を始めるとき、今の荷主に黙って進めると、稼働日の調整で不信感を生みます。伝え方は「減らす」ではなく「守る」の文脈にします。
- 「御社の便は今のとおり続けます。空いている午後の時間帯で別の案件を受けたいので、稼働時間の取り決めを確認させてください」
- 「繁忙期の増便には今後も対応します。閑散期の空き時間を別の荷主で埋めたいと考えています」
契約書に専属や稼働時間の定めがある場合は、それに沿って調整します。定めがなければ、口頭で伝えたうえで、メールで一文残しておきます。荷主にとっても、ドライバーが安定して続けてくれる方が利益になるので、「続けるために分散する」という説明は受け入れられやすいものです。
3社目を加える順番:2社目が安定してから、時間あたり粗利で選ぶ
2社目が3か月続いて完了率が落ちていないことを日報で確認してから、3社目に進みます。3社目の選び方は「時間あたりの粗利」です。荷主別の粗利の出し方は別記事「軽貨物は荷主別に粗利を出す」(公開後にリンク追加予定)にまとめています。
3社目を加えたら、比率が低くて時間あたり粗利も低い荷主を減らす判断もします。分散の目的は社数を増やすことではなく、1社に依存せず、かつ時間あたりの収入を下げないことです。
分散したときに増える事務と、その処理
荷主が増えると、次の事務が荷主の数だけ増えます。
- 締め日・支払日の管理(荷主ごとに違う)
- 請求書の作成(請求タイプが荷主ごとに違う)
- 入金確認と消込
- 契約書・条件表の保管
これを別々に管理すると破綻します。荷主一覧に「請求タイプ・締め日・支払日・当月請求額・入金予定日」を1行ずつ持たせ、月末の締めを1つの流れにしておくと、3社でも事務は月初の数日で終わります。月次の締め手順は別記事「軽貨物の月次締め手順」(公開後にリンク追加予定)で扱っています。日報も、荷主ごとに稼働時間と件数を分けて書いておけば、そのまま請求と粗利の材料になります。
よくある失敗
- 今の荷主に隠れて2社目を探す:契約上の稼働日・時間の取り決めに触れ、1社目との関係が悪化した。契約書の稼働条件を確認し、必要なら「他の案件も受ける」ことを伝える。
- 同じ業種の荷主で分散する:通販系2社で分散したつもりが、同じ時期に両方減った。
- 2社目で稼働を取りすぎる:2社目を欲張り、1社目の完了率が落ちて単価交渉で不利になった。
- 事務が増えて請求漏れが起きる:荷主が3社になった月から、加算の請求漏れと入金確認の抜けが出た。荷主一覧と月次の流れを先に作る。
実務メモ:分散は「打ち切られてから」では間に合わない
2社目・3社目を探すのは、今の仕事が埋まっているときにこそやることです。打ち切られてから探し始めると、条件の悪い案件でも受けざるを得ません。毎月の締めのときに荷主別の比率を1行書いておき、最大の荷主が5割を超えている月が続いたら、次の荷主を探す時間を週に数時間だけ確保する。この習慣が、いちばん確実な備えになります。
まとめ:今日からやること
- [ ] 直近3か月の請求書から、荷主別の売上比率を出す
- [ ] 最大の荷主の比率で、自分の段階(0〜2)を確認する
- [ ] 契約書の稼働条件を読み、他の案件を受けられる範囲を確認する
- [ ] 時間帯・繁忙期・業種・請求タイプがずれる2社目を探す(売上の2割を目標)
- [ ] 2社目が3か月安定したら、時間あたり粗利で3社目を選ぶ
- [ ] 荷主一覧(請求タイプ・締め日・支払日・入金予定)を作り、月次の締めを1つの流れにする
「1社で埋まっている」は安心材料ではなく、リスクの集中です。埋まっている今のうちに、次の1社を作ってください。