毎年2月になると、レシートの束と支払明細をひっくり返して確定申告書を書き上げ、税務署に持って行く——そういう申告の仕方をしているドライバーは、今でも珍しくありません。複式簿記でちゃんと帳簿も付けている。控除も55万円を取れている。何も困っていない。

ただ、その「紙で持って行く」というやり方が、令和9年分(2027年分・2028年提出)から控除額に直撃します。

先に結論から書きます。

結論:2026年のうちに「どのコースで行くか」を決める

令和8年度税制改正で、青色申告特別控除の区分が組み替えられました。関連法(所得税法等の一部を改正する法律)は令和8年3月31日に成立しており、令和9年分以後の所得税について適用されます。

改正の中身は、令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日 閣議決定)の言葉でいうとこうです。

つまり、いまの「55万円」という区分そのものが姿を消します。複式簿記で帳簿を付けていても、e-Taxを使わずに書面で申告すれば、残るのは10万円の区分ということになります。ここが今回いちばん効く変更です。

そして、対象になるのは2027年1月1日から12月31日までの取引。年が明けてから「今年は電子でやろう」と思い立っても、1月分の帳簿はもう紙で走り出しています。準備の実質的な期限は2027年1月1日です。2026年内にe-Taxの利用環境を整えておく必要があると考えてください。

現行と改正後を並べてみる

現行(令和8年分まで) 令和9年分以後
複式簿記+期限内申告+書面提出 55万円 10万円の区分に
複式簿記+期限内申告+e-Tax 65万円 65万円
上記+仕訳帳・総勘定元帳の電磁的記録の保存等 65万円 75万円
簡易な簿記など上記以外 10万円 10万円(※除外あり)

現行制度では、複式簿記+期限内申告で55万円、そこにe-Taxでの申告または電子帳簿保存が加われば65万円、という組み立てでした。改正後は「e-Taxは当たり前」の位置に上がり、その先の上乗せとして帳簿の電子保存が置かれる形になります。

なお、75万円の要件にある「電磁的記録の保存等」は「次に掲げる場合のいずれかに該当する場合に限る」とされていて、大綱ではその「次に掲げる場合」として、

の2つが挙げられています。国税庁はこれを、65万円の控除の要件に加えて「優良な電子帳簿の保存」または「デジタルシームレス保存」のいずれかの要件を満たせば最高75万円、と案内しています。前者が一般に「優良な電子帳簿」と呼ばれるもの(訂正・削除の履歴が残るなど一定の要件を満たす電子帳簿)、後者のデジタルシームレス保存とは「請求書等の電子取引データを自動で保存し、帳簿に自動連携する仕組み」を指します。つまり75万円を狙うルートは2本あります。ただし「一定の要件」の中身や対応システムの範囲など実務上の細目は、国税庁が公表する最新の解説資料・パンフレットで必ず確認してください。

「10万円すら使えない」人も出る

見落とされがちですが、10万円の控除にも改正が入っています。

10万円の青色申告特別控除の対象者から、これらの所得に係る取引を簡易な簿記の方法により記録しているもののうち、その年の前々年分の不動産所得または事業所得に係る収入金額が1,000万円を超えるものが除外されます。

軽貨物でいえば、車両を数台まわして年商1,000万円を超えてきた個人事業主が、簡易簿記のままだと青色申告特別控除そのものを失う可能性がある、ということです。該当しそうな規模の方は、複式簿記への移行を早めに検討してください。

軽貨物の帳簿で、具体的に何を電子化するか

軽貨物の帳簿は、実は電子化と相性がいいほうです。売上も経費も、出どころがはっきりしているからです。

売上側

経費側

やることはシンプルで、この一次資料が最初からデータで手元に来る状態を作ること。給油とETCを事業用のカードに寄せる、支払明細をPDFで受け取って月ごとのフォルダに落とす、日々の売上と経費をその日のうちに入力する。この3つができていれば、年明けからの電子記帳はそのまま走り出せます。

日報・請求・経費のメモが別々のノートやアプリに散らばっていると、年末にまとめて突き合わせる作業が発生して、そこで挫折しがちです。記録を一本化しておくと、控除の要件を満たす・満たさない以前に、単純に作業が減ります。

控除額の差を、説明用の例で見てみる

あくまで説明用の例として、控除が65万円から10万円に落ちた場合を考えてみます。

差額は55万円。所得税率5%、住民税率10%の人であれば、税金の差は 55万円 × 15% で およそ8万円強。仮の税率を当てはめただけの計算例で、実際の税率・税額は所得や各種控除によって変わります。

効くのは所得税・住民税だけではありません。国民健康保険料は前年の所得をもとに計算されるため、所得が下がれば保険料にも影響します。一方、個人事業税は所得税とは計算の基礎が異なり、青色申告特別控除がそのまま反映されるわけではありません。ご自身のケースでの影響は、所轄の税務署・市区町村・都道府県税事務所で確認してください。

いずれにせよ、「申告の出し方を紙から電子に変える」という作業量に対して、戻ってくる金額としては十分に見合う、という規模感です。

届出はいつまでに出すのか

帳簿の電子保存で上乗せを受ける場合、税務署への届出が必要になります。

優良な電子帳簿のルートは、現行の「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出」(A1-15、H4-9)を使います。提出時期は、国税庁の案内では適用を受けようとする年の翌年3月15日(適用を受けようとする年分に係る法定申告期限)まで。e-Taxソフトで作成・提出でき、書面での提出も可能です。なお国税庁は、この届出書の名称を令和9年3月頃に「65万」から「75万」へ変更する予定としています。

デジタルシームレス保存のルートは、「電子取引の取引情報に係る電磁的記録に係る重加算税の加重措置の不適用の特例及び75万円の青色申告特別控除(個人事業者)の適用を受ける旨の届出書」(D1-79、H4-4)を、適用を受ける年分の確定申告期限までに所轄の税務署へ提出します。すでに同じ様式の「65万円の青色申告特別控除(個人事業者)……」の届出書を提出している場合は、改めて提出する必要はないと案内されています(個人事業者では、重加算税の加重措置の不適用の特例は令和8年分から、75万円の青色申告特別控除は令和9年分から適用が始まります)。

つまり届出そのものは申告と同じタイミングでも間に合う一方、実際の帳簿は1年分そろっている必要がある——これが「準備は年内」という話につながります。届出書の様式や名称は改正に合わせて変わるため、令和9年分について提出する際は国税庁の最新の案内で確認してください。

また、まだ白色申告の方が令和9年分から青色申告に切り替えるなら、原則としてその年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を所轄の税務署長に提出する必要があります(その年1月16日以後に新たに事業を開始した場合は、開始した日から2か月以内)。帳簿・書類の保存期間は原則7年で、請求書・見積書・納品書・送り状などは5年でよいものもあります。

まとめ:2026年内にやることリスト

改正の細目や届出の様式は今後の公表資料で具体化される部分があります。最新の正確な情報は国税庁等の公的情報で確認してください。

参考